お話を聞いた人
PROFILEプロフィール
僧侶・ネイリスト
尾崎慈光おざき じこう
新潟県柏崎市で400年以上の歴史をもつ曹洞宗清月寺の長男として誕生。大学では宗教学を学び、修行を経て清月寺の副住職に。その傍ら、2017年には寺院内に「ネイル工房 HIKARI」を設立し、現在に至るまで僧侶とネイリスト、二足のわらじで活動している。
CONTENTS
#1
「なりたくなかった」から
始まった運命ほど、
静かに抗えないものはない
寺の長男として生まれた。
未来は、はじめから決められていた。
だが幼い彼は、ただひとつの理由だけで、僧侶になりたくなかった。
「丸坊主が、嫌だったんです」

それでも、小学5年の冬。
得度式という儀式が、彼の中の輪郭を変える。
選択ではない。
ただ、日常の流れのなかで、確かな方向が差し込む。
やがて大学で宗教を学び、永平寺へ。
凍てついた空気の中、ただ立たされ、問われ続ける。
—— お前は、何しに来た。
答えられなかった問い。
だがその問いは、彼の中で消えずに残る。
何になるかではない。どう在るか。
その問いだけが、静かに根を張っていった。

#2
夢を持てば、救われる?
— その物語に、彼はいなかった
修行を終え、彼はネイルと出会う。
衝動的な選択だった。
ただ、手に職を。
ただ、自由に働けるように。
それだけの理由で始めた仕事は、
やがて都市に店を構え、スタッフを抱え、“成功”の形へと近づいていく。
目標を掲げ、拡大し、追いかける。
誰もが正解だと信じている道。
けれど、その道の上で、彼は少しずつ削れていった。

朝から晩まで詰め込まれる予定。
数字に追われる日々。
終わらない緊張。
――不安しかなかった。
未来のために走っていたはずなのに、どこにも辿り着けない感覚。
そんなある日、パートナーが言った。
「あなたは、優しすぎる」
肯定でも否定でもない。
ただ、逃げ場のない事実だった。
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