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全労済トップページ > 被災者・被災地の復興に向けて > 東日本大震災 被災者・被災地の復興へ向けて

新連載

被災者・被災地の復興へ向けて―東日本大震災を乗り越えて

被災者一人ひとりに心を砕く支援を続ける

ミュージシャン 中川 敬さん

  3月11日に東日本をおそった未曾有の大震災。地震と津波の甚大な被害に加え、福島第一原子力発電所の事故による二次被害が震災をさらに深刻なものにしているのが現状です。
  こうした状況の下、私たちに何ができるのでしょうか。
  本連載では、東日本大震災の復興に向けた様々な取り組みやビジョンをレポートすることで、よりよい復興に対する理解と議論を深めていきたいと考えています。

阪神・淡路大震災の後、神戸を中心に被災地でのライブ活動に取り組んできたミュージシャンの中川 敬さんに、被災地でライブ活動に取り組んだいきさつや感じたこと、東日本大震災と福島原発事故での被災者への思い、支援の活動などについて聞きました。
(2011年3月28日取材)

 

 

「1回やれば何かがわかる」と避難所でのライブを決める

阪神・淡路大震災の後、神戸でライブ活動を行った
経緯についてお聞かせください。

中川阪神・淡路大震災が起きた時は、大阪北摂の自宅にいたんやけど、震度5の揺れで家中に本やCDが散らかり、停電にもなって。電気は1時間ほどで復旧したけども、テレビで神戸が壊滅的な状態になっていることが次第に分かってきた。大きな地震を経験したことがなかったし、地震当初は自分が何かをやりに行くような気分ではなく、被災者のような気持ちで、1週間ほどテレビばっかり見てたんよね。そんな頃、ソウル・フラワー・ユニオンのメンバーの1人である伊丹英子が「神戸に、民謡とか歌いに行かへんか。避難所で、年寄りの娯楽とか、なくなってるはずやし」と言い出して。「歌いに行こって、ボーカル、俺やん!」と思ったけど(笑)、まずはメンバーで話し合って。はじめは皆、不安で、メンバーの中には「被災して、えらい思いをしてる人らがぎょうさんいる場所で、やれる自信がない」みたいな話やったけど、最終的には「1回やったら、何かがわかるんちゃう?」ということになって。

  ちょうど同じ頃に、連れ合いを震災で亡くした脳性小児マヒの障がい者団体の代表の人が「今は町中が障がい者。今、障がい者のプロである俺らが動かへんかったら、障がい者はますます施設に閉じ込められる」とテレビ番組で訴えてるのを見て。それを見て、「毎日、テレビばかり見てる俺は一体、何やってんのやろ?」と思うようにもなって。また、芦屋で被災した作家の小田実さんが「マスコミは何やってんのや! こんなしょうもない番組作っているくらいなら、力のある奴で皆、被災地に来て働け!」とニュース番組で怒ってるのも見た。そんなこんなで、「何かやらなければ」と強く考えるようになっていた傍で、ヒデ坊(伊丹)が新聞やテレビで紹介されたボランティア団体に、「ロック・ミュージシャンなんやけど、民謡が演奏できるので、娯楽が必要になったら連絡下さい」と電話し始めてて。まあ、俺個人はハナから行く気マンマンやったんやけど、最後の背中の一押しを欲しがってたんやね。

 

「楽団ってええな」という声を聞き、気持ちが落ち着く

民謡は歌ったことがあったのですか。

中川当時は遊びで沖縄の三線弾いていた程度。だから、人前で三線を弾きながら民謡を歌ったこともなくて。でも、避難所に行くからには、年寄りもよく知ってる民謡や古い流行り歌をやろうということを基本に考えてて。沖縄民謡の<安里屋ユンタ>、神戸の長田は在日コリアンもたくさんおるから朝鮮民謡の<アリラン>、「沖縄、朝鮮があるんやったら、アイヌの歌も必要ちゃうか」「古い世代向けやったら、<聞け、万国の労働者>なんかの労働歌も入れようや」とレパートリーを増やしていったんよね。あとはもうひたすら練習。

  そうして震災発生から2週間あまりが経って、2月に入ると、「みんな、気持ちがささくれ立ってます。音楽が必要なので、来て下さい」と電話がかかり始めて。「まだ準備できてないのに!」と思ったけど(笑)、第1回目として、2月10日、避難所になっていた灘区の青陽東養護学校に行ったんよね。

被災地に初めて入った印象はどうでしたか。

中川強烈過ぎた。皆で機材車に乗って、ワイワイ言いながらはじめは向かってたんやけど、武庫川を渡り、西宮に入ったあたりから、全壊の家が増え始めて。コンビニで車を降りたら、隣の全壊した家には壊れたピアノがあったり、阪神タイガースのメガホンが転がっていたり、それをおばあちゃんがひとりで片付けしてたり。それを見て、テレビで見て理解したつもりになっていたけど、実は何も分かっていなかったんやな、とつくづく思った。そこから避難所に着くまでは皆、無言。4時頃に着いて、演奏は7時からやったから、避難してる人たちがいる教室に、その夜に使う歌本を配りに行ってね。髪の毛を赤や紫に染めた俺らが入っていくと、「こいつら、なんや」という感じではあったけど、「民謡やりますんで」って言うと、「お、民謡か」と声が上がるんよ。「民謡はすごい。やることにして、よかった」と思ったね。その後、破裂した水道管から水があふれてるような水くみ場の傍でリハーサルしていたんやけど、1人のおっちゃんが近づいてきて、「にいちゃん、楽団ってええな!」と言って、俺の腕をつかんできてね。「おっさん、演奏中やぞ!(笑)」って、反射的に言ってしまったんやけど、そのおっちゃんへの一言が自然に出たことで少し気が楽になってね。普段のライブをやる時と同じ気持ちになれた。だから、そのおっちゃんにはホンマ感謝やね。

 

被災者一人ひとりの悲しみや気持ちに心を寄せる

初めてのライブはどうでしたか。

中川とにかく、ウケた。100人ぐらい集まってたけど、<安里屋ユンタ>なんかは大合唱。演奏が終わった後、1人のおばちゃんがやって来てね。今まで泣いていたんやろな、いう顔で「にいちゃん、ありがとな。今度の震災で、家は全壊や。連れ合いも子どもも亡くしてしもた。でも、皆も同じやから、ずっとボランティアやってて泣くの忘れてた。あんたの歌のおかげで今日、やっと泣くことができたわ。おおきにな」と、肩を叩かれてね。これはもう、えらい衝撃で。「歌にはこんな力があるのか」と思ったし、「この活動、続けなあかんわ」と深く、心に刻んだね。


■演奏するソウル・フラワー・モノノケ・サミット(1997年冬)

その後のライブ活動の中で、
どんなことを感じましたか。

中川「呼ばれたら行く」スタイルにしていたけど、地元のボランティアと連携して、合計200回ぐらいは演奏した。その中で感じたのは、1人ひとりと出会うことの大切さ。被災を語るとき、「何人亡くなりました」といった抽象化された話になってしまう。ところが、実際には1人ひとりに悲しみがあり、1人ひとりに物語があり、それぞれ皆が違う感情を持ってるわけで。もちろん、被災者全員に心を寄せることはできないけど、できる限りたくさんの人に心を寄せるようなつきあい方をせんとあかん。そんな風に考えるようになった。

今回の東日本大震災と福島原発事故についてどう思われますか。

中川俺の中ではまだ整理がついてない、というのが正直なところ。けど、阪神・淡路大震災でそうだったように、音楽が必要とされる局面が来ることは間違いないとは思ってる(5月17〜19日、アコースティック形態で、石巻・女川・志津川・歌津など、五カ所の避難所で演奏した。5月23日段階)。ただ、石巻にいち早く拠点を設けたピースボートのメンバーで、世界で大地震が起こる度に現地に救援に入ってる友人も、今までに入った被災地の中で一番ひどい状態だ、と言ってた。こんな形で町全体がなくなってしまったところは見たことがない、とも。

  深刻な事態が続き、収束するメドが見えない福島原発事故があり、そちらにも意識を向けなければならないわけで、被災地の人たちになかなか心を砕けない状態が続いてる。ある看護師さんが避難所での活動の様子をブログに綴ってるのをツイッターで知り、それを読んで涙が止まらなくなったこともあった。どこに物資が届いてないとか、避難所の人たちが会話してるところ、お母さんを亡くした6歳の女の子に添い寝するシーンやらが、具体的に書いてある。津波の被災地や原発事故で避難しなければならなくなった地域の人のことを、漠然と抽象的に考えていたのでは、長期にわたることが確実な支援はできないと思う。様々な手段で、人々の気持ちや生活のありようを具体的に知ることで、持続した支援をしていこうと思ってる。

 

「ソウル・フラワー・ユニオン震災基金2011」で手作り支援活動を開始

被災地への支援活動として取り組まれていることがあるのでしょうか。

中川ソウル・フラワー・ユニオンでは、阪神・淡路大震災の後、介護が必要なお年寄りや自立身体障がい者の人に焦点をあてた「ソウルフラワー震災基金」をスタートさせてて。大きなチャリティ募金ではなく、手作りで丁寧にやろうと、自分たちでお金を渡しに行ったり、使い道も報告してもらったりして。そのお金が残っていたので、今回の東日本大震災に使おうと、「ソウルフラワー震災基金2011」として、改めて続けることにした。特に、原発事故が重くのしかかってる被災地の子供を持つ家族は、言葉にできないほどの不安を抱えているはずやし。そうした子どもたちが学校に安心して通える状況を作り出すことも含めて、継続的な支援をしていきたいと思ってる。

補足:ソウルフラワー震災基金により、被災地に入っている支援者からの要望を受け、4月初旬から5月初旬までの約1ヶ月間に、宮城県石巻市の避難所向けに沖縄のシンメー鍋50個、ガスコンロ13口、神戸長田のFMわいわいと連携し、宮城県亘理町と岩沼市のミニFM局、南相馬市の対策本部に、避難所で聞けるような携帯ラジオを650台ほどが送られた。また、4月下旬にはソウル・フラワー・ユニオンのメンバーやスタッフが現地に赴き、石巻市の保育所に文房具・事務用品、亘理町のミニFM局に衣類などを直接届けた。

 

「一緒にがんばろう」という気持ちで、長期的に支援

今後、音楽活動はどのように展開していこうとお考えですか。


■6月発売の中川敬ソロ・アルバム『街道筋の着地しないブルース』

中川震災直後の3月15日から、オフィシャルサイトで<満月の夕(ゆうべ)>のセルフ・カバー音源を無料で公開してます。今回の大震災が起こった時は、初めてのアコースティック・ソロ・アルバムを作ってる最中で。<満月の夕>は1995年2月に、神戸の避難所と大阪を往復する中で作った曲やけど、阪神・淡路大震災から16年目の今年1月にちょうど録音までしてたんで、まだミックス作業が途中の段階のラフなものやけど。

  たまたま、震災直後の3月15日に、YouTubeにアップされてる昔の<満月の夕>のライブ映像のコメント欄を見たら、被災した岩手の人が「この曲を聴いて、地震が起きてから初めて泣いた。気が張り詰めてて、今まで泣くことすらできなかった。ありがとう」みたいなことを書いてて。それ読んで、俺も正直涙が止まらんかったんやけど、「今の自分にやれることをやろう」という気持ちになれてね。ただ、震災直後の状況で、ネットで公開することにためらいもあったけど、思い切って公開した。

  今、一番大事なのは、被災地の人々に心を砕くこと。今回の震災は長期戦になるから、出番は皆にいつか必ずやってくる。だから今、元気があって行動できる人は、どんなことでもいいから、自分に何が出来るかを考えてやっていけばいいし、今は何もできない人は、これから絶対やってくる自分の出番に向けて準備していけばいいと思う。それと、阪神・淡路大震災の時もそうやったけど、被災地の人に「がんばろう」と言うと、「これ以上、どうがんばれというのか」「俺たちが、がんばっておらへんとでも言うのか」ということになり、被災した人に大きな負担をかけてしまうんよね。だから、「俺もがんばるで。せやから、一緒にがんばろな」という気持ちでやっていくことが大切やと思ってるよ。

 

 

中川 敬(なかがわ たかし)


1966年生まれ。ロック・バンド「ソウル・フラワー・ユニオン」のボーカリスト。

1993年に伊丹英子らと同バンドを結成。世界中の音楽を取り入れたミクスチャー・ロックバンドとして、国内外で高い評価を得ている。1995年の阪神・淡路大震災の際には、アコースティック・チンドン・ユニット「ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」として、避難所や仮設住宅でのライブ活動を幾度も行った。「ソウルフラワー震災基金2011」呼びかけ人のひとり(基金の詳細は http://www.breast.co.jp/soulflower/sfu20110328.html にて)。

また、2011年6月に初のアコースティック・ソロ・アルバム『街道筋の着地しないブルース』をリリース。また、ソウル・フラワー・ユニオンでは6月に、ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザンでは7月に、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットでは8月にツアーを行う。
詳しくは公式HP http://www.breast.co.jp/soulflower/
または公式Twitter http://twitter.com/soulflowerunion にて


◆リリース詳細

◎中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)『街道筋の着地しないブルース』
2011年6月22日発売 全14曲収録 2,800円
SOUL FLOWER RECORD/BM tunes XBCD-6004

◎ソウル・フラワー・ユニオン最新アルバム『キャンプ・パンゲア』
発売中 全15曲収録 3,150円 BM tunes XBCD-1034


◆ライブ情報

◎ソウル・フラワー・ユニオン
  “アジールから希望の一撃”ツアー

6/10(金) 名古屋 ell.FITS ALL open 18:00/start 19:00

 [問]JAILHOUSE 052-936-6041 http://www.jailhouse.jp/

6/12(日) 大阪 umeda AKASO open 18:00/start 19:00

 [問]GREENS 06-6882-1224 http://www.greens-corp.co.jp/

6/13(月) 京都 磔磔 open 18:00/start 18:30 [ゲスト]騒音寺

 [問]GREENS 06-6882-1224 http://www.greens-corp.co.jp/

6/18(土) 東京 duo MUSIC EXCHANGE open 18:00/start 19:00

 [問]SOGO 03-3405-9999 http://www.sogotokyo.com/

6/20(月) 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd open 18:30/start 19:00

 [問]GIP 022-222-9999 http://www.gip-web.co.jp/p/

◎ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザン(中川敬/リクオ/高木克)
  “中川敬アコースティック・ソロ・アルバム『街道筋の着地しないブルース』
  発売記念地方巡業〜アコースティック編〜”

7/11(月) 大阪 心斎橋 JANIS open 18:30/start 19:00

 [問]GREENS06-6882-1224 http://www.greens-corp.co.jp/

7/13(水) 名古屋 TOKUZO open 18:00/start 19:00

 [問]TOKUZO 052-733-3709 http://www.tokuzo.com/

7/14(木) 長野 ネオン・ホール open 18:00/start 19:00

 [問]ネオンホール026-237-2719 http://www.neonhall.com/

7/16(土) 宮城 白石 カフェ ミルトン open 18:00/start 19:00

 [問]カフェ ミルトン 0224-26-1436

7/18(月・祝) 東京 渋谷 CHELSEA HOTEL open 18:00/start 19:00

 [問]SOGOTOKYO 03-3405-9999 http://www.sogotokyo.com/

 

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