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作文の部 課題 忘れたくないこと
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総評

「あなたに、ありがとう!」

作家・子どもの本の専門店クレヨンハウス主宰

落合 恵子

落合恵子さんのプロフィール写真
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 「ありがとう!」。それぞれ心がこもった「あなたの」作文に接して、じわっとしたり、ふふふと笑ったり、目じりに滲んだ涙を知らんぷりして拭いたり……。久しぶりに、そんな心ふるえる時間を過ごした。だから、あなたにいままさに「ありがとう」を伝えたい。大人社会の問題ではあるけれど、なんだかゆとりのない、角ばった時代であり、社会であるような気がしてならない日々が続いている。

 本来、ひとが学び合い、成長するための栄養素である、個々人の「違い」を差別の理由にするような社会だ。悲しくなる。そんな時代であり社会であるからこそ、混じりっけのないピュアな「ありがとう」に出会いたい、と心から願う。
 そうして、あなたからの作文が、わたしに「ありがとう」の時間を贈ってくれた。

 昨日、わたしは何度、「ありがとう」と言っただろう。ふっと考えてみる。
 文房具屋さんのおねえさんに。ありがとう、と言われたし、言った。朝の陽ざしに枝の蕾がいっせいに咲きだした河津桜にも。その河津桜を静岡から送ってくれたひとにも。とれたてで、それぞれ名前がついた柑橘類を箱に詰めて、大きな文字で「元気かーい」と書いてくれた友人にも。

 それから、昼過ぎのバス(車内ののんびりした空気が好きで、つい乗ってしまうのだが)の中でも。小学、2年ぐらいだろうか。バス停から乗りこんできたお年寄りに、ちょっと緊張した口調で、「どうぞ」と席を譲った男の子。「ありがとね、やさしいのね」。譲られたひとの感謝の言葉に照れて、頬を赤くしていた彼。にこにこしているおばあさんと男の子と。ふたりの間に流れる、穏やかな空気と、車窓から差し込む眩しい光りにも「ありがとう」。

 小さな庭に花をつけた水仙。つぼみは、お習字の時に使った小筆みたいだという発見にも「ありがとう」。

 そう、いっぱいあるよね、「ありがとう」のもとは。
 今日、どれだけ「ありがとう」を言って、言われたか……。それが、それぞれの人の密やかな宝物、なのかもしれない。明日もまた。

(お願い 難しい言い回しがある場合は、大人にその意味をきいてください。)