「ありがとう!」。それぞれ心がこもった「あなたの」作文に接して、じわっとしたり、ふふふと笑ったり、目じりに滲んだ涙を知らんぷりして拭いたり……。久しぶりに、そんな心ふるえる時間を過ごした。だから、あなたにいままさに「ありがとう」を伝えたい。大人社会の問題ではあるけれど、なんだかゆとりのない、角ばった時代であり、社会であるような気がしてならない日々が続いている。 本来、ひとが学び合い、成長するための栄養素である、個々人の「違い」を差別の理由にするような社会だ。悲しくなる。そんな時代であり社会であるからこそ、混じりっけのないピュアな「ありがとう」に出会いたい、と心から願う。 そうして、あなたからの作文が、わたしに「ありがとう」の時間を贈ってくれた。 * 昨日、わたしは何度、「ありがとう」と言っただろう。ふっと考えてみる。 文房具屋さんのおねえさんに。ありがとう、と言われたし、言った。朝の陽ざしに枝の蕾がいっせいに咲きだした河津桜にも。その河津桜を静岡から送ってくれたひとにも。とれたてで、それぞれ名前がついた柑橘類を箱に詰めて、大きな文字で「元気かーい」と書いてくれた友人にも。 それから、昼過ぎのバス(車内ののんびりした空気が好きで、つい乗ってしまうのだが)の中でも。小学、2年ぐらいだろうか。バス停から乗りこんできたお年寄りに、ちょっと緊張した口調で、「どうぞ」と席を譲った男の子。「ありがとね、やさしいのね」。譲られたひとの感謝の言葉に照れて、頬を赤くしていた彼。にこにこしているおばあさんと男の子と。ふたりの間に流れる、穏やかな空気と、車窓から差し込む眩しい光りにも「ありがとう」。 小さな庭に花をつけた水仙。つぼみは、お習字の時に使った小筆みたいだという発見にも「ありがとう」。 そう、いっぱいあるよね、「ありがとう」のもとは。 今日、どれだけ「ありがとう」を言って、言われたか……。それが、それぞれの人の密やかな宝物、なのかもしれない。明日もまた。 (お願い 難しい言い回しがある場合は、大人にその意味をきいてください。)
「あなたに、ありがとう!」
作家・子どもの本の専門店クレヨンハウス主宰
落合 恵子
「ありがとう!」。それぞれ心がこもった「あなたの」作文に接して、じわっとしたり、ふふふと笑ったり、目じりに滲んだ涙を知らんぷりして拭いたり……。久しぶりに、そんな心ふるえる時間を過ごした。だから、あなたにいままさに「ありがとう」を伝えたい。大人社会の問題ではあるけれど、なんだかゆとりのない、角ばった時代であり、社会であるような気がしてならない日々が続いている。
本来、ひとが学び合い、成長するための栄養素である、個々人の「違い」を差別の理由にするような社会だ。悲しくなる。そんな時代であり社会であるからこそ、混じりっけのないピュアな「ありがとう」に出会いたい、と心から願う。
そうして、あなたからの作文が、わたしに「ありがとう」の時間を贈ってくれた。
*
昨日、わたしは何度、「ありがとう」と言っただろう。ふっと考えてみる。
文房具屋さんのおねえさんに。ありがとう、と言われたし、言った。朝の陽ざしに枝の蕾がいっせいに咲きだした河津桜にも。その河津桜を静岡から送ってくれたひとにも。とれたてで、それぞれ名前がついた柑橘類を箱に詰めて、大きな文字で「元気かーい」と書いてくれた友人にも。
それから、昼過ぎのバス(車内ののんびりした空気が好きで、つい乗ってしまうのだが)の中でも。小学、2年ぐらいだろうか。バス停から乗りこんできたお年寄りに、ちょっと緊張した口調で、「どうぞ」と席を譲った男の子。「ありがとね、やさしいのね」。譲られたひとの感謝の言葉に照れて、頬を赤くしていた彼。にこにこしているおばあさんと男の子と。ふたりの間に流れる、穏やかな空気と、車窓から差し込む眩しい光りにも「ありがとう」。
小さな庭に花をつけた水仙。つぼみは、お習字の時に使った小筆みたいだという発見にも「ありがとう」。
そう、いっぱいあるよね、「ありがとう」のもとは。
今日、どれだけ「ありがとう」を言って、言われたか……。それが、それぞれの人の密やかな宝物、なのかもしれない。明日もまた。
(お願い 難しい言い回しがある場合は、大人にその意味をきいてください。)