Episode.4 漫画家

「働く上で2番⽬に⼤切なことが、1番⽬に⼤切なことを⽀えている。」

僕が漫画家になったばかりの頃、と⾔ってもまだ6年ほど前のことではありますが、僕は「奇をてらうこと」ばかり考えていました。奇をてらい、まわりの誰よりも⽬⽴つことこそが、業界で⽣き残るのに不可⽋な要素だと思っていたのです。

…こういう書き出しだと、「実は奇をてらうことよりももっと別の⼤事なことに気づいたんだ」ってオチに着地するんだろう?そう思われるかもしれません。いえ、奇をてらうことはめちゃめちゃ⼤事で、今でも1番⼤切なことだと考えています。この⽂章を書きながら、どう奇をてらおうかなんて考えているぐらいですから、僕は今も現在進⾏形で変わり者を⽬指しています。

なにより、絵を描く技術に未だに⾃信がないですし、時間を忘れるほど絵を描くことが好きというわけでもない。誰よりもヘンテコな発想、まだ誰もやってない切り⼝を探すことの⽅が⼤好きなんですね。
それで今⽇まで仕事を繋いできたと思っていたのですが、先⽇、とある担当編集者さんと打ち合わせしていて、その考え⽅の⾻格が変わってしまう、そんなやり取りがありました。
新規の漫画の企画を振ってくださった編集者さんに、僕はちょっと褒めてもらいたくなってしまって、「どうして俺なんですか?」なんてダサいことを聞いてしまいました。すると意外な返事が返ってきました。

「うーん…メールとか修正の対応が早いから、ですかねぇ…」

え?発想が奇抜だからとかじゃなくて?
ちょっと肩透かしを⾷った僕は、あれこれ聞き返したのですが、出てくる理由は、〆切を守る、打ち合わせに遅刻しない、SNS 等で業界の悪⼝を書かない…など、⼀向に「奇をてらってきた努⼒」については触れてもらえない。
痺れを切らした僕は、⾃分から「…発想はどうですか?」と、ダサにダサを塗り重ねるような質問をついにしてしまいました。
するとこんな返事が。

「発想が⾯⽩いのは当たり前ですよ、それが⼀番⼤切です。でもそれがちゃんと⼈に伝わらないと仕事にならないですからね〜」

…なるほど。
当たり前にやるべきことをやって、それが⾃分の発想を⼈に伝える通路を整えている。もしかしたら、働く上で 2 番⽬に⼤切なことが、1 番⽬に⼤切なことを⽀えているのかもなと思いました。
変わり者、レアな奴ほど天才で、そんな⼈間にこそ仕事が舞い込む物だと思ってたけど、でもどうやらそういうわけでもないようです。

相⼿も⼈間、⼀緒に仕事がしやすい⽅が良いに決まっています。仕事には納期・期⽇があるんですよね。それを守るのが編集者さんたち・社会で働く⼈たちの最も⼤切な仕事。

そういえば僕は気の⼩さい⼈間です。「奇をてらおう」としている時点で、天才ではないこともバレてるとは思います(笑)。
気が⼩さいので、⾃分の送ったメールの返事が遅いとソワソワしてしまいます。相⼿を怒らせてないかな、つまんないこと送ってしまったかな…。だから⾃分が返事をする場合は、メールを読んだらなるべく即返信、返事が思いつかない時は「少しお時間をください」とだけでも返事をしてしまいます、そうでもしないと落ち着かない。遅刻されたら嫌だから遅刻しないし、SNSで悪⼝書かれたくないからSNSで悪⼝は書かない。

漫画家として 7 年⽬、僕はずっとこんな調⼦で、ビクビクビクビクと不安を抱えて仕事をしています。それでも案外なんとかやっていけてます。
仕事を始めたばかりの皆さん、もし⾃分の仕事の仕⽅に不安になるようなことがあれば、いつもより少しメールの返事を早めてみてください。結構、効果あるみたいですよ。