Episode.3 マーケター

社会人生活のスタートで
「挫折」を経験したあなたへ

大学を卒業した翌年、日本に帰国した私は企業には就職せず、フリーランスの道に進みました。強い意志を持ってその道を選んだわけではなく、バブル経済が崩壊して多くの企業が新卒採用を取りやめたため、就職したくてもすることができなかったからです。さらに当時は今ほど共働きが当たり前ではなく「女性は結婚するとすぐに仕事を辞めてしまう」という理由で、門前払いをされることも珍しくはありませんでした。

そんなわけで、私の社会人としての人生のスタートは、自分にとってまったく不本意なものでした。男性と同じように受験勉強をして、海外での孤独な生活に耐え、アルバイトをしながら独学でプログラミングを学び、自分としてはできる努力を最大限してきたつもりです。にも関わらず、まったくそれらの努力は評価されず「女性だから」「若くないから」という理由で、皆と同じスタートラインに立つことすら許されなかったのです(今では信じられないかもしれませんが、当時女性は大卒より高卒のほうが良い企業に就職できました)。

しかし、今にして思えば、この挫折が私の人生を好転させてくれました。当時の私には失うものが何もなかったので、来たチャンスに迷うことなく飛びつくことができました。また、どんなに小さな仕事でも、喜んで引き受けることができました。自分には、それしかなかったからです。

逆に、もし私が難なく希望の企業に就職できていたとしたら、きっと私はそこで得た「地位」を失うことを恐れて、やりたいことがあってもチャレンジすることができなかったでしょう。他人は簡単に「チャレンジしろ」と言いますが、挑戦は失敗のリスクを伴います。人生の早い段階で「失いたくないもの」を手にしてしまった人は、はたから見たら幸運な人生のように見えるかもしれませんが、長い目で見ると必ずしもそうとも限らないのです。

いま、かつての私と同じように、自分の希望が叶えられず挫折感を味わっている人がいたら、あなたはラッキーだと思います。失っても惜しいものが何もなければ「挑戦するだけタダ」なのですから。失敗しても、元の自分に戻るだけ。今より悪くなることはありません。

「挫折が人を強くする」とよく言いますが、率直に言って、強くはならないと思います。私はこの年になるまで数々の挫折や失敗を経験してきましたが、そのたびに死にたくなるほど落ち込みますし、消えてなくなりたいと思うほど恥ずかしい思いもします。そこで感じる心の痛みは、20代の頃と何も変わってはいません。いくつになっても転ぶのは嫌なものです。

にも関わらず自分がチャレンジすることに躊躇がないのは、精神的に強いからではなく、自分の原点をずっと覚えているからだと思います。私の原点は、100社以上の企業に門前払いされ、途方に暮れていた「あの日」なのです。たとえ大失敗して全てを失っても、あの日の自分に戻るだけ。そう思えば、なにも怖くはないのです。