知って得するライフプランニュース
相続における「配偶者居住権」のメリットや留意点(約7分で読めます)
2020/6/30 配信
民法(相続法)が改正され、令和2年4月1日に配偶者居住権が新設されました。残された配偶者が安心して住み慣れた家屋に住み続けることができる権利として、その活用が見込まれています。配偶者居住権のメリットや留意点などについてみていきましょう。
■配偶者居住権とは
配偶者居住権は、夫婦の一方が亡くなった時点で、その人が所有していた家屋に配偶者が住んでいた場合には、終身または一定期間、その家屋に配偶者が無償で住み続けることができるという権利です。配偶者居住権は、令和2年4月1日以降の相続について適用されます。遺言で配偶者居住権を設定する場合も、同日以降に作成したものが有効となります。
■配偶者居住権のメリット
【住まいと老後の生活資金の確保】
民法改正前は、亡くなった人が所有していた家屋に配偶者が安心して住み続けるために、配偶者自身が家屋の所有権を取得するケースが一般的でした。しかし、配偶者が引き続きその家屋に住み続けるためにその家屋を取得しようとしても、遺産の構成によっては家屋だけで配偶者の相続分に達してしまい、金銭など家屋以外の資産は一切取得できず、老後の生活資金に窮することがありました。
<a.(民法改正前)配偶者居住権が無いケース>
遺産総額4,000万円(自宅:2,000万円、預貯金2,000万円)、相続人は配偶者と長女の2人(法定相続分は2分の1ずつ)のケースとします。
法定相続分どおりに分割すると、配偶者が自宅(2,000万円)のすべてを相続した場合、長女が預貯金(2,000万円)を相続することとなり、配偶者が相続できる預貯金はゼロとなることから、配偶者の老後の生活資金が不足する場合があります。
民法改正後は、配偶者以外の相続人が家屋の所有権を取得し、配偶者が配偶者居住権を取得することにより、配偶者は自身の住まいが確保され、預貯金等の金融資産も相続することができるため、安心して老後の生活を送ることができるようになりました。
<b.配偶者居住権を設定したケース>
遺産総額4,000万円(自宅:所有権1,400万円、配偶者居住権600万円、預貯金2,000万円)、相続人は配偶者と長女の2人(法定相続分は2分の1ずつ)のケースとします。
法定相続分どおりに分割すると、配偶者が配偶者居住権600万円と預貯金1,400万円を相続した場合、長女が自宅の所有権1,400万円と預貯金600万円を相続することとなり、配偶者は住まいと老後の生活資金の両方を確保することができます。
【婚姻期間が20年以上ある夫婦における遺贈の優遇措置】
婚姻期間が20年以上ある夫婦の一方が亡くなった時点で、その人が所有していた家屋に配偶者が住んでいて、その人が配偶者に配偶者居住権を遺贈(遺言により財産を無償で与えること)する場合、この配偶者居住権については原則として遺産分割の対象とはならない(分割の対象となる相続財産には含まれない)ため、配偶者はより多くの財産を取得することができます。
<c.遺贈により配偶者居住権を設定し、婚姻期間20年以上あるケース>
遺産総額4,000万円(自宅:所有権1,400万円、配偶者居住権600万円(婚姻期間20年以上の配偶者が遺贈により取得)、預貯金2,000万円)、相続人は配偶者と長女の2人(法定相続分は2分の1ずつ)のケースとします。
配偶者居住権600万円については、亡くなった人との婚姻期間が20年以上ある配偶者が遺贈により取得していることから遺産分割の対象とはならないため、この額を除いた遺産3,400万円が分割の対象となります。これを法定相続分どおりに分割すると、配偶者は預貯金1,700万円、長女は自宅の所有権1,400万円と預貯金300万円を相続することとなります。結果として、配偶者は<b.配偶者居住権を設定したケース>よりも多くの財産を取得することができます。
一方、婚姻期間が20年未満である場合にはこの優遇措置は適用されないため、遺贈する配偶者居住権は配偶者の相続分に含まれ、法定相続分どおりに分割すると<b.配偶者居住権を設定したケース>と同様になります。
■配偶者居住権の留意点
配偶者居住権は、居住を目的とする権利であるため、第三者に譲渡することや、家屋の所有者に無断で家屋を賃貸すること、所有者に無断で家屋の増改築をすることができないという制約があります。ただし、家屋の所有者の承諾を得れば,第三者にその家屋を貸すことができるため、たとえば,配偶者本人が介護施設に入ることになった場合に、使用しなくなった家屋を第三者に賃貸することにより得た収入を、介護施設の費用に充てることができます。
また、配偶者居住権は、その家屋が、亡くなった人と配偶者以外の人の共有名義になっている場合には取得することができない点や、法務局で登記をしておかなければ第三者(家屋の所有者からその家屋を譲り受けた人等)に主張することができない点にも注意が必要です。
配偶者居住権には制約もありますが、家屋の所有権を取得するよりも低い価額で居住の権利を確保することができるため、遺言や遺産分割の際の選択肢の一つとしてその活用が見込まれます。法制度については留意すべき点もあるため、弁護士や税理士等の専門家に事前に確認しておくとよいでしょう。
- メルマガのご感想をお寄せください。
( アンケート)
※ なお、いただいたご意見・ご感想に対する回答は行っておりませんのでご了承ください。