わたしのふるさと What is FURUSATO for you? わたしのふるさと What is FURUSATO for you?

誰しも生まれた地、育った地があります。ずっとその地で過ごす人、進学や就職を機に離れる人、転々とする人。
縁ある土地とのつき合い方は人それぞれです。「第二のふるさと」「心のふるさと」という言葉があるように、「ふるさと」は、生まれ育った地とも限らず、もしかすると、物理的な土地とすら結びつかない、その人にとって大切ななにかがある場所とも定義できるかもしれません。
あなたにとって「ふるさと」は、どんなものでしょう。

17田中元子さん

茨城県古河市生まれ、茨城県境町、水海道市育ち→
東京都在住

茨城県古河市生まれ、茨城県境町、水海道市育ち→東京都在住

田中元子(たなか・もとこ)

株式会社グランドレベル 代表

1975年茨城県生まれ。茨城県内で医院を営む家庭で、自身も医師になるものとして育てられるも、医学部進学を取りやめ家出して東京に。独学で建築を学び、2004年、大西正紀と共にmosakiを設立、建築コミュニケーター・ライターとして活動。「けんちく体操」を広める活動が、2013年に日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。2015年よりパーソナル屋台のプロジェクトを開始。2016年に「1階づくりはまちづくり」をモットーとする(株)グランドレベルを設立。2018年に「喫茶ランドリー」をオープンし、グッドデザイン賞やリノベーションオブザイヤーを受賞。著書に『マイパブリックとグランドレベル』(晶文社)など。

グランドレベル公式サイト

医学部に行かず、家出して上京

東京暮らしが人生の半分以上になりました。高校まで茨城でしたけど、気持ちとしては「茨城生まれの東京育ち」です。実際、いまの私は完全に、東京に育ててもらいました。私、都会が好きなんです。アメリカならニューヨーク、イギリスならロンドンが好き。でもとにかく東京が最高だ!って、いまだに思います。いろんなところに行きはしますし、田舎もいいと思うんですよ。豊かですよね。茨城のことも忘れてしまったわけではなく、子どものころから慣れ親しんだ、筑波山だけがピョコっと見えるあの景色は、原風景と言えると思います。ただ、自然って強くて偉大で圧倒されますよね。都会は人の営みが不器用に集積していて、どこかできそこないなところが人間らしく感じるんです。等身大の私自身にも投影できる。愛おしいじゃないですか。私には、こっちのほうが日常な感じがします。

高校までは茨城でしたが、いまは関係も良くなった家族とも、そのころ仲が悪かったし、学校では居場所がないしで、通学バッグに私服を入れて東京に来ては、レコード屋さんに通ったりしてました。実家は病院ですけど、自分も医者になるんだと心を決めることはできなくて、卒業後は結局、受かっていた医学部に進学せずに上京してきました。あれは家出ですね。まぁ、東京に彼氏がいたのが大きかったんですけどね(笑)。

抱きしめたいくらい東京が大好き!

整然とした空間ではないところが、子どもたちが飽きずに過ごせるポイントなのではないかと思わせる喫茶ランドリー。

疎外感を抱いていた十代のころ、東京に出入りするようになって、いろんな大人のサンプルと出会えたことが、自己肯定につながりました。レコード屋さんにいたロッカーみたいなカッコのおっちゃんも、それまで持ってた大人のイメージと違ったけど楽しそうだった。躾に厳しい家だったこともあって、茨城時代は、自分を「ダメで悪い」と恥に感じていたのを、「ダメでなにか悪いの?」って思えるようになりました。ダメでいいんですよね。「こうでなくてはならない」というのがあるのってしんどいことです。東京には、ライフスタイルを自分でつくる自由がある。よく、東京の人は冷たいとか言うけど、よそ者が集まるまちで干渉し合わないって、やさしさなんだと思うんですよ。嫌なことも避けやすいですよね。「人が倒れてても声もかけない」なんてことが仮にあるなら、自分がかければいいことです。

東京には、キラキラで眠らないまちもあれば下町もある、若者のまちもあればお年寄りのまちもある。多様な個性のまちを次々サーフィンしながら、日本屈指のお金持ちと話したあとに、ホームレスのおじさんと話すこともある。まちからまち、人から人、そうやってサーフィンしてると、お金のあるまちや人ばかりがしあわせとは限らないということもわかります。人と都市って相似形というのでしょうか、同じように多面性がありますよね。どちらの場合も私は、完全じゃない人間っぽさに惹かれます。東日本大震災のとき、東京を離れて地方や外国に行く人が、私の周りにも多かったんですけど、私は、たとえここが砂漠になっても、い続けようと思いました。それくらい、こうやってパーっと手を広げて抱きしめたいくらい大好きです!

憧れの対象ではなかったから、幻滅もなかった

建築コミュニケーター・ライターとして活動していたころ。いまでは貴重な黒髪時代(!?)

こんなに東京が大好きな私ですけど、中高生のころから、東京が憧れの対象だったことはないんです。それがよかったんじゃないかな。東京の悪口を言い募る人って、憧れてた人でしょう?憧れに裏切られて、「東京のバカヤロー」って、長渕剛になっちゃう(笑)。それって東京にフラれたってことですよね。私の場合、夢を持ったこともなかったから、あてもなく出てきた東京で、パチンコ屋さんでバイトしながらの生活もちっとも不幸じゃなかったんです。幻滅しようがなかった。茨城では、医者になる道を捨てるなんて不幸だと思われていましたからね、東京での、幸せかどうかを自分で決められる自由を素晴らしいと感じました。

幸運なことに、資格なくしてずっと、建築関連の仕事に携わることができています。子どものころから建造物が好きでした。高度経済成長のツルツルピカピカの建物より、洋館とか、レンガの壁とかが好みで。東京に来てみたら、銀座和光とか、表参道の同潤会アパートとか、古くて素敵な建物があったので、すっごくドキドキしたんです。同潤会アパートは、大都会の中にツタのからまるあの姿に衝撃を受けました。取り壊しが決まったというニュースで日本中が転覆するくらい大騒ぎになると思ったらならなくて、ならば自分でなにかしようと部屋を借りて写真展やった思い出があります。あれを失った痛手から、良さをわかってほしくて書くことを始めたんです。好きだから身についたんですよね。教科書で学んだのではなく、好きで好きで、聞いて回って。そのうちお金をもらえるようになっていきました。

※東京と横浜に存在した、日本最初期の鉄筋コンクリート造の耐火集合住宅。1923年の関東大震災のあと、復興住宅として誕生、西洋のスタイルを取り入れた、当時としては先進的な設備を有するアパート群であった。老朽化に伴い取り壊しが決まった際には保存運動もあったが、順次姿を消した。跡地に複合商業施設・表参道ヒルズが建った旧(同潤会)青山アパートもそのひとつで、最も有名。

東京に恩返しがしたい

今日は「元気な喫茶ランドリー」?

自分に自信がなくて不安がってる若い子って多いですよね。私なんて、専門的に学んでない、これといってスキルもない、カフェやってるけど料理も片づけも満足にできない、そんな、ないないづくしです。それでもなんとかなってるよって、伝えたいです。私が高校生のときにレコード屋さんで出会った、あのおっちゃんみたいな存在で、私自身もありたいなぁって。年をとるのは怖くないですよ。極真空手の大山倍達の逸話で、「いつが一番強かったか」と問われ、「これからだ」と答えたという、そんな、おそらく都市伝説を真に受けて、「総合力では死ぬ間際」ってずっと思ってるんです。それでもって、「まだ生きたい」って歯ぎしりするくらいで死にたい。悟りたくなんかないです。あのまま茨城にいたら、こうは思えなかったと思います。

自由であることが私にとってはなにより大事。喫茶ランドリーも、「こんな風に使ってください」「こうやって過ごしてください」ではなく、来る人自らが選びとれる自由な場所、価値を決めてもらえる場所にしたかった。それは働く人についても同じで、いつも、「“喫茶ランドリー“に寄せてくるのはやめて」って言ってるんです。今日は元気なスタッフだから元気な喫茶ランドリーで、明日はおとなしいスタッフだからおとなしい喫茶ランドリーになるのでいい。やってるのが人間なんだから、そのほうがチャーミングですよ。そんなうちのスタッフがチェーン店に移ったら、揃ってクビになるんじゃないかと思いますけど(笑)、私からすると、どうして働く人やお客さんに委ねないのか不思議。会社とかってすぐに管理する方向に行っちゃうみたいだけど、もっと信用して委ねればいいのに。

まちにベンチが圧倒的に足りないと思って、たくさん設置するプロジェクトをやったときも、それやったらどうなるかって、管理者目線でのリスクばっかり指摘されたんですね。こういう人が来たらどうする?ホームレスが寝たらどうする?とか。いや、どうもしないよ!って。そんなこと考えてどうするんでしょう。東京というまちで、いろんな人のいろんな面を見てきたからこそ、それより人って環境次第だと思ってるんです。いろんな人がハッピーだと感じやすい環境ができれば、さらにハッピーなものも生まれやすい。そんな環境づくりを通して、大好きな東京に貢献して、恩返ししたいです。手探りしないと次の扉に触れられないから、いまも手探りし続けてます。

ふるさとのお気に入り

東京

by田中元子さん

  • 代々木体育館(国立代々木競技場)

    どの角度からでもカッコいいハンサムボーイ!彼氏にするなら絶対この子、って感じのモテモテボーイですよ。形がワクワク、躍動感もあふれてて、中で行われていることに合ってる。世界的に見ても最高です。たぶん国宝になると思います!

編集後記

「人間の住むところじゃない」などと言われることが多い東京ですが、住んでこそ魅力のわかるまちだと、私も思っています。もちろん、悪いところも、東京になくて地方にある良さもたくさんあります。田中さんがおっしゃるように、人と同じ。好きか嫌いかは結局、相性と、あと、その人らしい時間の使い方ができる環境にあるか次第な気がします。それにしても、自ら好き好んで暮らす土地への愛を隠さず、恩返しへの行動も伴っている田中さんは魅力的。東京の多様性を代表する、まさに若いころに出会えたら最高な大人のサンプルのひとりですね!実はこくみん共済 coop公式キャラクター「ピットくん」のファンだという意外な(?)一面も披露してくれました。

(取材・文:小林奈穂子)


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