• ご加入の皆さま
  • マイページ
  • 共済金のご請求

今月の「生きるヒント」

住まいに愛情、暮らしに愛情

一生のうち、住まう家は限られています。長く過ごすところだから、できるだけ居心地よく、自分らしく保ちたい。常に最高のモノに囲まれて生活したり、時間をかけてお手入れしたりは無理でも、それぞれのペースで、日々の豊かさを感じられる暮らしがしたい。こころも充実、エコで豊かな「生きるヒント」をお届けします。

第12回

時が経つほど愛おしい。一生ものの椅子と暮らす。

家具の中でも、とりわけパーソナルな思い入れを持ちやすい椅子。思い切った買い物にはなりますが、良いものを選べば、一生ものどころか孫の代まで愛されるものになるかもしれません。毎日の思い出を共にするパートナーに、物語を持つMade in Japanの椅子はいかがでしょうか。連載の最終回としてお届けします。

「座る」用途を超えたパートナーとして

教えてくれた人

ワイス・ワイス

野村由多加さん

材料の由来から、つくり手との信頼関係、使い心地までこだわったオリジナルの家具を販売するWISE・WISE(ワイス・ワイス)。野村さんの現在の職務は広報ですが、職人としての技術もお持ちです。震災後に入社し、特に木材においては、国際環境NGOと協働しながら国産を採用する取り組みに関わってきました。お客さんには、デザインのみならず、ストーリーを支持する方が増えているといいます。

WISE・WISE公式サイト
選び方はそれぞれ。彫刻のような捉え方をする人も

椅子はほかの家具と比べても、デザインや素材のバリエーションが豊富です。「選び方は千差万別。基本的には人間の体のシルエットに近いのが椅子という家具の特徴ですが、人間工学に基づいた座り心地を持つものもあれば、座れこそすれ快適とは言えない奇抜なデザインのものもあり、たとえ座りづらくても、「これがいい」という方がいるのが面白いところです。彫刻のような、オブジェに準ずる位置づけで手元に置きたい方もいらっしゃるんです」と野村さん。素材によってもまったく個性を異にします。木製の椅子、ラタンの椅子、折りたたみやスタッキング(積み重ねて収納すること)に向くスチールの椅子、ポップなプラスチック製、樹脂製もありますね。それぞれに、雰囲気も機能も異なります。

写真:末長く愛せそうな椅子を選ぼう。

木材の由来も、家具の大事なストーリー

WISE・WISEで特に力を入れているのは国産材の椅子。私たちが普段意識するのは「木製」までで、その先には無頓着になりがちですが、一口に木製と言っても、大別して広葉樹と針葉樹、さらに、さまざまな地域で育った、さまざまな樹種があります。野村さんはこう語ります。「家具業界もご多分にもれず、リーマンショックを経ての激しい低価格競争にさらされました。海外に安価な材を求めるビジネスは、環境や人権の問題と背中合わせです。安さを追求してゆくと、いろいろなところに無理が生じる可能性が高くなります。日本は本来、世界に類を見ないほど多様で、材として優れた樹種を有する国です。素晴らしい材が足元にあるにもかかわらず、なかなか使われないのは残念なことです。最近は、僕らが大事にしている、そうした背景も踏まえて購入される方が増えてきたと感じています」

写真:秋田県の栗の立ち木の伐採の様子。木の内部の密度が高まる冬が木の伐りどきとされる。広葉樹は切り株から芽が出るため、伐採後の森も年月を経て再生する。

家具に使う針葉樹と広葉樹、その違い

材料としての木というのは、深いのです。まずは針葉樹と広葉樹。スギやヒノキに代表される針葉樹は、空気をたくさん含んでいるため、椅子くらいなら女性でもひょいと持ち上げられる軽さで、また、触れるとやわらかなぬくもりがあります。針葉樹の材は概ね入手しやすいものの、家具への加工には高度な技術が必要で、従来は不向きとされてきました。一方、重くて硬く、一般に家具をつくるに適しているといわれる広葉樹。その硬さから、細部にこだわりシャープに加工しやすい材です。ブナやナラ、クルミ、クリなどそれぞれに素晴らしい風合いを持ちます。ただ広葉樹は、戦後、真っすぐに早く太く成長する針葉樹が全国に植林されたことで淘汰されてゆきました。さらには、外国産材の珍しい樹種や熱帯雨林などの太くて均質で安価な木材が大量に輸入され、国内林業は衰退します。特に広葉樹を加工できる製材所は激減。野村さんによると、広葉樹を専門に製材・加工できる工場は、両手に収まるくらいではないかと。木材と扱う人の両面から、貴重なのですね。

写真:宮城県産スギでつくられ、蜜蝋ワックスで仕上げられたWISE・WISE の人気商品。触れるとほっとする触り心地で、非常に軽い。

仕上げの塗料も、風合いを左右

針葉樹と広葉樹のお話をしてきましたが、椅子をどのように仕上げるかでも風合いは大きく違ってきます。ウレタンを塗って仕上げた製品は、さっと拭けてお手入れは楽ですが、木が呼吸しなくなり、木材ならではのあたたかみも少々損なわれます。同じ塗料でも、天然のオイルや蜜蝋ワックスを使うと、汚れや傷には弱いものの、自然な木材の風合いが生きた仕上がりになります。調湿効果、香りのリラックス効果を維持でき、また、化学物質に敏感な方にも安心という長所もあります。背もたれや座面を布張りした椅子も、張替えによる変化が楽しめて魅力的ですね。最近はクッション素材が進化して成型しやすくなり、座り心地が向上しているそうですよ。

写真:布を張った、シンプルながら存在感のある椅子。使用している木材はヨーロッパ産のフェアウッド(伐採地の生態系や地域社会への配慮が確認されている木材)。

ひと言アドバイス

ウレタン仕上げのものは水拭きだけで十分です。オイルや蜜蝋ワックスで仕上げられたものがひどく汚れてしまった場合は、400番以上の細かい紙やすりをかけてください。そのあと乾いた布にオイルやワックスを含ませて拭きます。

木材のみならず職人も、世界有数

木の椅子の、材料による違いはわかってきましたが、最後にそれをつくる職人さんのお話です。野村さんは「日本の職人の技術は本当にすごいんです。細部にわたる精度の高さは世界一といって間違いないと思います。従来から椅子文化だった文化圏には、北欧をはじめ、名作といわれる椅子がたくさんありますが、それらの文化圏の人々と日本人は、通常体格が異なります。靴を脱がずに過ごすライフスタイルも、私たちのそれと異なります。現在は、日本人の手による、日本人の暮らし向きに合った椅子も多くつくられており、デザイン面でも決してひけをとらないと私たちは思っています」と、力を込めました。日本には素晴らしい材料も、つくり手も揃っていることを、もっともっと伝えてゆくのも使命だと、そんな思いなのだそうです。

写真:日本ならではでありながらモダンな印象の座椅子。フレームは北海道産のオーク(ブナ科)と東北のクリから選べる。

自分にぴったりの椅子を、末永く

選び方はさまざま、という椅子ですが、相談があれば、「どんな暮らしをされたいか、から始めます」と野村さん。用途や、家族構成などにも鑑みて提案しているとのこと。お子さんやお年寄りも使うなら、重すぎるもの、角があるものは避けるといった配慮も必要です。以前は一揃えで購入されていたダイニングセットも、テーブルと椅子とを別に求める人が増えたそうですし、ひとり暮らしでも家族がいても、自分にぴったりの椅子を、吟味して選べたら素敵ですね。そして末永く、パートナーのように大切にできたなら、木を育てた人も、つくり手の職人さんも、伝えながら販売する人たちも、その椅子をこの世に送り出した甲斐があるに違いありません。

写真:ダイニングテーブルに、個性の異なるいくつかの椅子を合わせてもいい。

野村さんより

普段意識することはないと思いますが、椅子は命を預ける道具でもあります。ですから商品化において私たちは、一般的な日本工業規格(JIS)の3倍の負荷をかけてテストを行います。発送の際の梱包にも心を砕きます。山で育つ木が材料となるまでにどれだけ手がかけられているか、職人さんがどれだけ丹精込めて椅子にしているか、それらを知る者の責任として、一脚の椅子が使う方の手に渡るまでのすべてを、大切に考えなくてはならないと思っています。

編集後記

自ら手づくりすることから離れていると、ものの成り立ちを考えなくなってしまいがちです。手軽さはともすると、材料やつくり手に対する敬意を忘れさせてしまいます。オイルや蜜蝋ワックスで仕上げた椅子は、ウレタン仕上げのそれよりお手入れが少し面倒。でも、野村さんはその少しの時間を「心を整える」時間にしてほしいとおっしゃっていました。忙しい日々、美しく行き届いた暮らしへのハードルは確かに高いですが、小さくとも積み重ねることで、愛情を宿してゆきたいですね。
「エコで豊かな暮らし」をテーマに12回にわたりお届けした『住まいに愛情、暮らしに愛情』は、たくさんの方にご覧いただき、心のこもったご感想も数多くお寄せいただきました。どうもありがとうございました。