今月の「生きるヒント」

住まいに愛情、暮らしに愛情

一生のうち、住まう家は限られています。長く過ごすところだから、できるだけ居心地よく、自分らしく保ちたい。常に最高のモノに囲まれて生活したり、時間をかけてお手入れしたりは無理でも、それぞれのペースで、日々の豊かさを感じられる暮らしがしたい。こころも充実、エコで豊かな「生きるヒント」をお届けします。

第9回

おうちカフェ。ホッと一息の一杯と暮らす。

自分で丁寧に淹れるお茶やコーヒーを楽しむひとときには、素敵なカフェでのそれとは一味違う喜びがあります。缶やペットボトルの手軽さも、コーヒーメーカーの便利さもいいですが、ゆったりとしたひととき、家族や親しい人たちのため、ご自分のための一杯を淹れてみませんか。せっかくなのでプロに教わるコツを共有できたらと思います。

茶畑の香りを、まるごといただく

教えてくれた人

茶茶の間

和多田喜さん

日本茶専門店の店主で日本茶ソムリエ。学生時代に日本茶のおいしさを知り、まだその楽しさを知らない人たちにも日本茶を楽しんでもらいたい、おいしく飲んでもらいたいとの思いから、2005年に専門店「茶茶の間」をオープン。日本茶のプロとして魅力を広めている。

茶茶の間公式サイト
本当においしい日本茶の味、知っていますか?

当たり前のように私たちの身近にあるように思っている日本茶ですが、和多田さん自身も大学生のときにおいしい日本茶(以下、断りがない場合は「緑茶」を指す)を口にして初めて、「ちゃんとした日本茶を飲んだことがなかった」と気がついたそうです。「コーヒーや紅茶を淹れるプロはいるのに、日本茶はいないんですよね。日本には茶道がありますが、茶道のお茶と食事やティータイムに楽しむ日本茶は別物です。作法や流儀を持たない気軽に飲める日本茶の、本当のおいしさを伝える人が必要だ。そう思いました」。確かに、日本茶にはお金を出して飲むイメージがあまりありませんね。気がつかないうちに、本来の価値を軽んじているところがあるかもしれません。お手頃な印象がある日本茶ですが、歴史的には日本茶が庶民のものになったのは昭和の途中で、それ以前はとても貴重な高級品だったと和多田さんが教えてくれました。

写真:飲み比べると、個性の違いが楽しめる。いろいろ用意して、日本茶パーティするのも楽しそう。

お茶こそ、「専門店で選ぶ」

貴族や一流文化人などほんの一部の人のみが口にできる飲み物だった緑茶を、大量に生産できるようになったのは昭和30~40年代。希少だった緑茶が流通するようになるとすぐに家庭に広まり、生産の効率化が図られてスーパーなどでも取り扱われるように。今では、ペットボトルでも味わえる手軽なものになりました。お茶は身近にあふれるようになりましたが、他方で嗜好品としてのお茶、「山間地でつくられた本物の山のお茶には、ますます触れる機会が減っている」と和多田さん。お聞きするほどに、では「本当においしい日本茶」ってどんなお茶なのかと、興味がわきます。それを知るための一番の方法を和多田さんにお尋ねすると、まずは「お茶の専門店でお茶を買うこと」との回答が。奥深い世界だからこそ、その道のプロに聞きながら選んで、淹れて飲めば、きっと楽しいお茶時間が訪れるとのことでした。

写真:基本の道具。複数人に淹れるときは、「湯のみに少しずつ廻し注ぐ」やり方が一般的だが、和多田さんは、(写真左のような)いったん別の器(湯冷ましやガラスの器)に注ぎ入れてから分けるのをおすすめしている。そのほうが均一に入り、また、味見もしやすく失敗しなくなる。

作法なし!目で見て香って味見して

「みなさんは、急須に浮かぶ茶葉の美しさや、淹れているときに立ち上がる香りを楽しんだことはありますか?」と和多田さんは問いかけます。「専門店でちゃんと選ばれたおいしいお茶ならば、淹れ方を選びません。熱湯で淹れてもいいんです。熱すぎたら水を差せばいいし、濃ければお湯で薄め、薄ければ急須に戻してもう一度淹れてください。味見しながら調節すればいい」と。え?そうなんですか?「ぜひ、淹れる時間も楽しんでください。急須のふたをせずに、茶葉の様子を見て、香ってみてください。味見して、自分好みのタイミングを見つけてください。淹れるところから始まる、お山の茶畑そのままを五感で味わう贅沢が日本茶の醍醐味です」。…和多田さんに淹れていただいた一杯は確かに、口にしたとたん、ふわっと甘やかな香りが立ち上がり、春の茶畑が目の前に現れるかのよう。感動です。この感動をおうちで再現できたら…。早速チャレンジしてみましょう。

写真:目からうろこの「ふたをせず、確かめながら淹れる」。

ひと言アドバイス

最近の茶袋は、しっかりと密閉できて遮光性もある性能の良いものが出回っています。空気を抜いてしっかり閉じるだけで簡単に保存できます。茶缶で保存する場合は2週間ほどで飲みきるのが目安。水はおいしい軟水を使いましょう。

和多田さんより

かつて静岡で出会った雨あがりの茶畑の香りは、まさしく淹れたてのお茶の香りでした。山の香り、季節の香り…日本茶は、日本人の中に刻まれた原風景に訴えるものを持っているのではないでしょうか、ときとして懐かしさも感じられます。産地によって風味が異なり、一般に冬が厳しいところほど甘みが強くなります。お茶の木は陰地を好むので、山間地のものがよりおいしい傾向も。自然の恵みを五感で味わってください。

香りに包まれ、淹れる一杯の贅沢

教えてくれた人

ピエニ ヨキコーヒー

大下佑介さん

飲食店一筋でやってきたものの、なんと以前はコーヒーが飲めなかったという大下さん。高知県に移住してコーヒー専門店を営むお兄様の淹れた一杯で開眼し、伝授を受け、先に都内で自ら経営していたスペインバルのお隣に、そのお兄様のお店の姉妹店を開店。高知のお店から送られてくる自家焙煎の豆を使って、ハンドドリップで提供している。

ヨキコーヒー公式サイト
コーヒーは、理系脳で淹れる?

ハンドドリップで淹れるコーヒーの魅力は「自分好みに、思い通りに淹れられるところ。でも、そう簡単ではないところ。ただ落とせばいいということではなく、シンプルだからこそ奥が深いんですよ」と語る大下さん。大学は理系だったそうで、「ドリップしながらコーヒーの中でなにが起きているか、理系脳で考えるのが好きで、その点では向いていたように思います」。なるほど。挽いたコーヒーをフィルターに入れて、なぜ最初に蒸らすのか、そうっとお湯を差してゆくと、なぜ膨らむのか、温度やドリップの速さでなぜ味わいが違うのか。確かに理系の要素ですね。道具の無駄のないデザインも、実験用のそれに見えなくもないです。

ゆっくり「の」の字を描くように

プロにもそれぞれ異なるやり方、考え方がありますが、用意する基本の道具は、注ぎ口が細いやかんと、ドリッパーセット、ペーパーフィルターです。大下さんのお店では、一杯150ccあたり15gのコーヒー豆を使います。①ドリッパーにペーパーフィルターをセットして、挽いたコーヒー豆を入れて均します。②中央部分に、中で全体に行き渡るくらいの湯を注いで20~30秒蒸らします。湯は沸騰したてより少し冷ました90℃前後が適温と言われています。③湯がフチにかからないよう中心を意識して、「の」の字を描くように、少しずつ丁寧に注ぎます。ドリッパーから出てくるコーヒーの量と同じくらいずつが目安。表面の白っぽいアクが入らないよう、落とし切る前に捨てましょう。さっとドリップするとすっきり目、ゆっくりするほどしっかり目の味に。大下さんは、約2分半で淹れてくれました。

写真:丁寧に淹れる一杯には、飲む前から楽しみがある。

コーヒーのいろいろ。ちょっと知ると、もっと楽しく

豆は産地や精製方法、焙煎の度合いによって味わいが異なるので、自分好みを見つけてみましょう。精製方法は大別すると、一般に「ウォッシュド」と「ナチュラル」と呼ばれるもの。ごく簡単に説明すると、前者では、摘みとったコーヒーの実を乾燥させる前に水洗処理するのに対し、後者はそれをしません。風味はそれぞれに特徴があり、ウォッシュドは雑味が少なくクリーンに、ナチュラルは文字どおり自然でやわらかな味わいになる傾向があります。詳しくは専門店で聞いて、また、違いを実際に味わってみてください。最近では、自宅のお鍋で焙煎にチャレンジするなど凝る人も増えているようですが、この焙煎も、浅めか深めかで好みが別れるところです。また、多くの専門店には、単一の豆の特徴を楽しむ「ストレート」と、複数を混ぜた「ブレンド」が用意されています。ちょっと知ると、もっと楽しくなりそうです。

写真:相性抜群のシナモンロールと!(写真右)

ひと言アドバイス

コーヒーは生鮮食品。挽きたての新鮮なものがおいしいのです。豆はできるだけ少量ずつ買い求め、密閉して保存しましょう。挽いたとたん劣化が進むため、自宅で都度挽けるのが理想です。

大下さんより

コーヒー豆を、焙煎して淹れるところは最後の仕上げです。栽培し、摘みとり、加工して運んでくれる人たちがいるのだから、自分はアンカーなんだという気持ちで、丁寧に淹れるよう心がけています。おいしさはもちろん、香りに包まれて淹れる時間もまた贅沢なもの。一杯のコーヒーを淹れる隙間のような時間をつくる余裕が、今日という日を豊かにするように思います。

編集後記

お茶は世界中で飲まれていますが、葉だけではなく茎もお茶にするのは日本茶だけだそうです。和多田さんによると、その葉と茎が、日本茶にするのに最適な柔らかさになるのは、365日中たった1日しかないのだそう。びっくりです。こんなに身近なものなのに、知らないことが多いものですね。日本茶もコーヒーも、淹れるのに要するのは3分ほど。準備して、ゆっくりと味わう時間を入れると20~30分でしょうか。お店で飲むのもいいけれど、おうちでホッとひと休み。そんな時間を持てることこそ、豊かですね。


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