今月の「生きるヒント」

住まいに愛情、暮らしに愛情

一生のうち、住まう家は限られています。長く過ごすところだから、できるだけ居心地よく、自分らしく保ちたい。常に最高のモノに囲まれて生活したり、時間をかけてお手入れしたりは無理でも、それぞれのペースで、日々の豊かさを感じられる暮らしがしたい。こころも充実、エコで豊かな「生きるヒント」をお届けします。

第7回 編むという手仕事。日本と世界のかごと暮らす。

お台所の道具に、収納やインテリアに、ファッションアイテムとしても。地域で採取できる植物を材料に、人の手で編んでつくられるかご。その守備範囲はとても広いのです。昔のままの姿を残しながら新しい使われ方をしているものも多く、もともとの用途を知ると意外なものがたくさん。見た目や使い勝手の良さはもちろん、一つひとつの背景を知るほどに、好きにならずにはいられません。

地域の植物を、地域で編む

教えてくれた人

カゴアミドリ

伊藤征一郎さん

カゴアミドリは、東京都国立市にあるかごの専門店。店内には、国内外で大切につくられたさまざまなかごが並びます。営むのは、前職ではアウトドアウェアの販売に携わっていた伊藤征一郎さんと、国際NGOの職員だった朝子さんのご夫妻。2010年に40歳手前で退職し、エシカル(“倫理的”と訳され、一般に、環境や人に対し倫理上かなうビジネスや消費を指す言葉)なものを扱いたいとの思いを出発点に始められたお店だそうです。

カゴアミドリ公式サイト
つくり手とつながることのできる製品

9割以上をつくり手から直接買いつけているという伊藤さん曰く、「雑貨屋というよりは、八百屋に近い感覚」。伊藤さんは、このお店を開くことになるまで、特にかごが好きだったわけでも、詳しかったわけでもないそう。「自然に負担をかけず、途上国の人とつながることのできるフェアトレード(途上国の原料や製品を適正な価格で買い取り、現地で働く人を守る公正な取引)で、かつ次の世代に残せるものを扱うお店をやりたいとふたりで考えたら…」と、きっかけを語ります。おふたりで同時期に前職を辞して、アジアやアフリカを皮切りに、お店で販売するもののヒントを得るため旅をする中で、かごにたどり着いたといいます。じきに日本にも素晴らしいかごとその職人さんが多く残っていることを知り、国内外両方の製品を販売するお店にしたそうです。

写真:ケニアのカンバ族の女性たちがつくるかごバッグ。心が浮き立つような鮮やかな色も、安心な染料を用いて染められています。しっかりとしたつくりで丈夫。

かごはエコのエリート

かごのほとんどは、地域の植物で、手仕事によりつくられています。製造過程における環境への負荷はほぼゼロで、長いものは数十年の使用に耐えます。次第にその魅力にひかれていったという伊藤さん、中でも心をとらえた点を次のように。「割いて形を変えるというシンプルな加工なので、材料も工程もわかりやすい。地域の素材にダイレクトに触れることができます。それから、使い込むほどに味が出ます。多くの工業製品は、買ったときが一番輝いていますが、かごは逆なんです」。長く使えるだけではなく、長く使いたくなる。まさにエコの優等生、エリートと言ってもいいかもしれません。

イワシ専用のかご、鶏を運ぶかご!

文化的背景を知るとさらに興味が増します。例えばやわらかいカーブがおしゃれなフランス製のかご。ブルターニュ地方で生まれたその形状は、もともと名産の牡蠣を運ぶためにつくられたのだとか。かごは海産物とも農産物とも縁が深いのです。海のものではほかに、背の曲がった新鮮なイワシが収まりやすいよう、専用につくられたものも。畑では、肥料を運んだり撒いたりするかご、鶏を運んだかご、ベリー類を摘むためのかごもあります。石炭の運搬用という骨太なルーツを持つ、当時は大型だったかごも。これらすべてが、サイズなどを変えるなどしながら、現代に合う使い方で愛用され続けています。

写真:後列中央、三日月のような形に見えるのが、かつて鶏を運ぶのに使われた、その名も「ヘン(雌鶏)バスケット」。ヨーロッパのかごはほとんどがヤナギで編まれます。こちらはスウェーデン製。

素材の種類がどこより豊富な日本

世界中で使われてきたかごですが、日本のかごは素材の多様さにおいて、ほかに類を見ないのだそうです。これだけ雪の降る土地に多くの人が暮らしている国は世界的に珍しく、この厳しい冬が、日本のかごづくりの技術を育みました。かごを編むことは、農閑期に、農家の人たちがおこなった主要な手仕事のひとつでした。地域ごとに、自生していたり、育てやすく加工しやすい植物を材料にしていて、最も多く使われてきた竹だけとっても幾種類もあります。水分が少なくなることで耐久性が上がるため、竹を採取する“旬”もまた、基本的に冬。自家用に、また、現金収入のために、各地でつくられてきたのです。

写真:伊藤さんが手にしているのは、宮城県の「肥料かご」。肥料を入れて撒きやすいようにつくられたため、肥料がこぼれないよう篠竹に桜の皮を合わせてあります。持ち手の杉の枝にも味わいが。

ひと言アドバイス

最初に取り入れるなら、日々使えるシンプルな日本のざるからぜひ。まな板やおひつといった天然素材の台所道具同様、使い終わったら早く乾かしてください。蒸れるのを避けるため、ふせるより掛けておくのがおすすめです。洗う道具には、昔ながらのたわしが向いています。

地域伝統のものづくりを、つないでゆくために

かごづくりには、世代を超えて培われてきた経験と知恵が、材料の調達から加工まで活かされています。日本では、専業の職人のみでなく、今も前述のような農家のつくり手に支えられていますが、その数は減っています。量産のむずかしい手仕事であるため、人気で購入に数年の待ちが生じるものも。その現状を、「つくり手の高齢化や後継者不足はたいへん深刻な問題ですが、これからかごづくりを生業としたいと考えている人にとっては、チャンスでもあると思います」と伊藤さん。竹細工の一大産地である大分には専門の訓練校もあって、そこで基本を学んで地元に戻り、地域の伝統的なかごづくりに取り組む若い職人も出てきているのだそう。一度途切れてしまうと取り戻すことがむずかしい技術の継承ゆえ、伊藤さんは、若いつくり手にも注目し、応援してゆきたいとのことでした。

写真:見るほどに美しい蕎麦ざるは、根曲竹を材料に戸隠で編まれています。熟練の技をもってして一日二枚、山に材料を採りに行く手間暇は含まれません。一枚5,000円ほどで、こだわりのお蕎麦屋さんの多い信州だからこそ残った逸品です。おにぎりやトーストにも素敵。

共に歳月を重ねる楽しさを

畳は裸足で歩くほうが、木の手すりは触るほうがツヤが出るように、かごもそう。伊藤さんも「ぜひ、暮らしの道具として、飾るよりも使ってください」と言います。人の手で時間をかけて編み上げられるかごは、量販店に並ぶものより高価ではありますが、共に歳月を重ねる楽しみがあります。伊藤さんのお店で扱うかごは、長いものでは数十年使い続けることができ、修理がきく場合もあります。長いおつきあいになりそうな品に出会えたら、購入の際に是非、そのかごの持つストーリーについて尋ねてみましょう。

伊藤さんより

都会暮らしでは、材料やつくり手さんとのつながりを意識しづらいですよね。でもそこに、ものを超えたストーリーがあると思います。つくる人はつかう人を考えてつくっています。大切につかわれることで報われるのではないでしょうか。丁寧なものを取り入れると丁寧な暮らしになり、自分も丁寧になるようにも思います。かごを通してきっかけを提供できたらうれしいです。

編集後記

長く愛用するものには、伊藤さんの言葉をお借りすると、なんらかの「ものを超えたストーリー」が必ずあるように思います。ものとストーリーとが一体化して大事に思えるのですから、とても人間味がありますね。「丁寧なものを取り入れると丁寧な暮らしになり、自分も丁寧になる」という言葉も深いです。つくり手がいてくれるから、そんな豊かさを手にいれることができる私たちですが、手仕事の未来も、選び、使う側のライフスタイルにかかっているのだと改めて思いました。


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