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2011年11月号 人に優しい「食」のススメ―「スローフード」という生き方 第7回 料理人の立場から大都市での地産地消に取り組み続ける

家族と食卓を囲みながら、ゆったりとした時間を過ごし地域のことにも思いをはせるーー。そんな、あたりまえの「豊かな暮らし」を求める人が増えています。「食の安全」「地産地消」「スローフード」などのキーワードがしばしばメディアを賑わすのも、そうした表れの1つ。このシリーズでは、「食」と「暮らし」を巡って議論されている、古くて新しい豊かさと幸福、持続可能なライフスタイルとは何か、を探っていきます。

第七回目にご登場いただくのは、市民団体「横浜野菜推進委員会」の代表を務める椿直樹さん。全国有数の大都市・横浜で、料理人の立場から地産地消の推進に取り組んできた経緯と、今後の目標についてうかがいます。

 

開催した約400講座に約1800人の方たちが参加

椿さんは「横浜野菜推進委員会」の代表として8年以上、横浜での地産地消の普及に貢献されています。委員会を立ち上げたきっかけは何だったのですか?

椿 私はずっと料理人をやってきていまして、28歳の時にフレンチの修行のためにフランスへ渡りました。しかし、本場で自分の未熟さを痛感し、帰国後は将来のことも考えてイタリアンやスペイン料理へと幅を広げていきました。

  そしてスペイン料理店でシェフをやっていた頃、たまたま足を運んだ全国のご当地野菜フェアで神奈川産の野菜を見つけまして、食べてみたらとても新鮮で、身近なところにこんな素晴らしい野菜があったのかと驚きました。それが、地場の野菜に目を向けるようになった最初のきっかけです。

  その後、料理人の友人と2人で地場の食材を使った料理教室を始めたのですが、当初はなかなか参加者が集まりませんでした。そこで以前、野菜ソムリエ(ベジタブル&フルーツマイスター)の講習でお世話になった先輩に相談したところ、「しっかりやっていきたいのなら、団体を立ち上げなさい」とアドバイスをいただき、2003年10月に料理人仲間と八百屋さんの4人で「横浜野菜推進委員会」をスタートしました。

これまでどのような取り組みをしてこられたんですか?

椿 メインでやってきたのは、地場の野菜と触れ合う機会を設け、食育を推進するための講座です。具体的には、一般の方を対象に野菜の収穫から食べ比べ、料理教室までを行う「ボナペティ・ヨコハマ」、親子を対象に地場の生産農家を訪ねて体験・実習・見学やゲームなどを行う「味覚塾」、働く女性を対象に栄養士や八百屋さんによる講座・講義と料理教室を行う「ビストロ・ハマップ」などを開催してきました。

  委員会がスタートして以来、開催した講座は累計で約400、参加していただいた方は約1800人に上ります。現在は「味覚塾」だけを開催していますが、ほかにも横浜市やJAさんからの要請で講習会などを行っています。また、委員会の20人余りのメンバーの中には、講座に参加して委員会の趣旨に賛同し、メンバーとして加わった人たちもいます。

  委員会は9年目を迎えますが、横浜の地産地消を推進するという理念さえ外さなければ、あとはメンバー各自の都合に合わせて活動するというゆるやかな運営方針が功を奏したのかと思っています。ただし、市民団体は10年やって一人前といいますので、私自身はまだまだこれからだと考えています。

県内最大の耕地で生み出される多品種の農産物

横浜市といえば全国の市町村の中で最も人口が多い大都市です。その横浜と地産地消の取り合わせを意外に思う人も多いのではないでしょうか?

椿 確かにそうかも知れませんが、国の調査によれば横浜市の耕地面積は約3000ヘクタールと、神奈川県内の市町村では最大で、農業就業人口も約5400人と最多です。

  横浜市も都市農業を確立し、都市環境を守ることを目的に独自の「農業専用地区」を指定するなど、農業振興に力を入れています。こうした取り組みの結果、全国有数の生産量を誇る小松菜をはじめ、キャベツ、カリフラワー、ほうれん草、ジャガイモ、なす、トマトなど、多品種の「横浜ブランド農産物」が生産されています。

  また、市内では農産物の風味を引き立てるごま油のほか、味噌や醤油なども醸造されていて、地産地消の推進という面では比較的恵まれた環境にあります。

  私は委員会を立ち上げて以来、当初の数年間は週2回、各地区の生産農家の方たちを訪ねてお付き合いをしてきました。地場野菜の魅力は、何といっても新鮮さと、作っている方の顔が見える安心感、信頼感です。生産農家の方たちから「何を作ったらいいか教えて欲しい」と、アドバイスを求められる機会も少なくありません。

  もちろん横浜でも、後継者がいなくて荒れている耕地もありますが、逆に新規就農の方たちも非常に増えています。その点は、都市農業ならではの特徴かも知れません。

料理人同士の連携を深めるためのコンテスト

現在は「横浜野菜推進委員会」のほかに「濱の料理人」プロジェクトの幹事長を務め、2009年には農林水産省の「地産地消の仕事人」にも認定されていらっしゃいます。

椿 「横浜野菜推進委員会」では一般の方たちを対象に地産地消の普及活動に取り組んできましたが、料理人としての立場からもっと発信する方法はないだろうかと考え、2009年11月に「よこはま地産地消フォーラム2009」で「濱の料理人」プロジェクトを提案し、翌年4月に発足しました。

  プロジェクトの理念は、横浜を全国に誇れる地産地消の代表都市にすることにあり、料理人や生産農家、小学校の栄養職員のほか、地場の食品メーカーの方たちなど、多彩なメンバーで構成されています。

  具体的な取り組みとしては、横浜市環境創造局の後援のもとに年1回、「“濱の鉄人”料理コンテスト」を開催しています。これは横浜産の食材を使って新たな横浜名物を生み出そうという趣旨のイベントで、コンテストで選ばれた料理人には地産地消の優れた担い手として“濱の鉄人”の称号が与えられます。

  ただし、コンテストの本当の狙いは競い合いではなく、イベントを通じて料理人同士の出会いとネットワークづくりを促進することにあります。というのも、料理を媒介にして生産農家と消費者を結びつける料理人は、地産地消を推進するうえで非常に重要な役割を担っているからです。

  また、「地産地消の仕事人」の認定に関しては、ある生産農家の方の働きかけで推薦していただき、ちょうど「濱の料理人」プロジェクトを提案した日に認定証の授賞式が行われました。私にとってはまさにサプライズでしたが、神奈川県初の認定ということで、とても名誉に思っていますし、励みにもなっています。

「地恵地楽」で次世代に地産地消をつないでいく

今後の目標についてはどのように考えていらっしゃいますか?


横濱焼小籠包

横浜ビール

椿 一言でいえば「地恵地楽(ちけいちらく)」の普及・拡大です。

  これは「地元の恵みを地元で楽しむ」という、ゆるやかな地産地消の形を意味するコンセプトで、その一環として2011年3月に「よこはまグリーンピース」という会社を設立しました。事業内容は地場野菜の流通で、具体的には約50軒の生産農家と契約し、料理店や学校給食、病院、老人ホームなどに旬の野菜を卸しています。

  ただし、横浜では年2回、春と秋口に端境期があり、その間は供給がストップします。そこで、新たな取り組みとして「椿商店」というオンラインショップを立ち上げ、第1弾として「横濱焼小龍包」の販売を始めました。

  これは横浜産の豚肉ブランド「はまぽーく」を100%使用し、横浜地ビール「横浜ビール」の酵母と横浜市のオフィシャルウォーター「はまっ子どうし」を加えて焼き上げた小龍包で、ネット販売だけでなく、各種のイベントにも出店しています。また、今後は豚トロの角煮や、イタリアンのカルボナーラに使うグアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)など、「はまぽーく」にこだわった商品の販売も予定しています。

  最近では地産地消という考え方もかなり浸透してきましたが、さらなる推進・発展を実現していくためには食材だけでなく、人のつながり、地域の交流、コミュニティの形成が不可欠です。これからも料理人という立場をベースに「地恵地楽」のスタイルで、ぜひ次世代に地産地消をつないでいきたいと考えています。

椿 直樹(つばき・なおき)


 

横浜野菜推進委員会代表

株式会社よこはまグリーンピース代表取締役

2003年10月に「横浜野菜推進委員会」を立ち上げ、地場野菜の魅力を広く伝えるための活動を展開。2009年に神奈川県で初めて農林水産省「地産地消の仕事人」に認定される。2010年4月に自ら提案した「濱の料理人」プロジェクトが発足。2011年3月に地産地消のさらなる推進・発展をめざして(株)よこはまグリーンピースを設立。同年8月末からオンラインショップ「椿商店」( http://www.tsubakisyouten.com )で横浜産豚肉を使った商品の販売を開始する。


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