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2011年10月号 人に優しい「食」のススメ―「スローフード」という生き方 第6回 地域の力を活かした地産地消献立で食育を推進する

家族と食卓を囲みながら、ゆったりとした時間を過ごし地域のことにも思いをはせるーー。そんな、あたりまえの「豊かな暮らし」を求める人が増えています。「食の安全」「地産地消」「スローフード」などのキーワードがしばしばメディアを賑わすのも、そうした表れの1つ。このシリーズでは、「食」と「暮らし」を巡って議論されている、古くて新しい豊かさと幸福、持続可能なライフスタイルとは何か、を探っていきます。

第6回目は栃木市を訪問し、栄養教諭・管理栄養士の中田智子さんに地産地消献立の学校給食による食育推進への取り組みについてうかがいました。

 

子どもたちに新鮮でおいしい学校給食を

数十年ぶりに学校給食をいただいて、充実した献立とおいしさに驚きました。ご飯もふっくらとした炊きあがりで、甘みがありました。こんな給食を毎日食べている子どもたちは、本当に恵まれていると思います。

中田 ありがとうございます。この栃木市都賀学校給食センターでは、小学校3校、中学校1校の給食を担当していまして、毎日1200食を作っています。先ほど食べていただいたのは、児童・生徒に出す給食とまったく同じ献立です。

  ご飯、マーボー豆腐、小松菜のレモンあえ、牛乳、アップルシャーベットという献立ですが、ご飯は都賀産のコシヒカリを使い、マーボー豆腐には都賀産のねぎとにら、それに調味料として都賀産の大豆を使って地元で作った味噌を使用しています。小松菜と牛乳は、ともに栃木県産です。ちなみに栃木県は、北海道に次いで全国2位の生産量を誇る生乳の産地でもあります。

  また、ご飯は委託炊飯ではなく、家庭用炊飯器を活用して炊きたてのご飯を提供する体制に切り替えました。給食センターで都賀産コシヒカリの無洗米を家庭用炊飯器にセットして各校に配送。各校の配膳室でスイッチを入れて炊飯します。給食の時間が近づくと校内によい香りが漂い、炊きたてのホカホカが食べられるわけです。

中田さんは、栄養教諭・管理栄養士として地産地消献立と食育推進に力を注いでこられ、農林水産省が選定する「地産地消の仕事人」でもいらっしゃいます。これまでの経緯についてお聞かせください。

中田 そもそものきっかけは、栃木県が単独事業として企画した「学校給食地場農産物流通促進事業」です。2003年8月に生産者と青果商組合が一堂に会し、実現化に向けた検討会が始まりました。その後も会議を重ねた結果、生産者、JA、青果商組合が互いに協力し合って納品することで合意し、翌2004年4月から地場農産物の購入がスタートしました。

  地場農産物の安定供給体制を整えるうえでは、生産者と青果商組合の役割分担、適正価格・品質・総量の保持、安全性の確保といったいくつかの課題をクリアする必要がありました。そこで、会議の席では青果商組合に対して地産地消を推進する意義をよく説明し、生産者に対しては納品についての説明会や見学会、学校給食物資購入契約についての説明会などを行いました。

  地元で生まれ育った私は、地元で採れた野菜のほとんどが東京に出荷され、それを給食用の食材として購入するという、まるで逆輸入のような状況に長年疑問を感じていました。それでは鮮度が落ちるうえ、輸送費も加算されてしまいます。

  私自身の念願でもあった地産地消献立を実現できたのは、関係者の方々が率直に意見を交わした結果、全員が地域のために力を合わせ、子どもたちに新鮮でおいしい学校給食を提供しようという思いで一致したからです。

※「地産地消の仕事人」とは

農林水産省は2008年から、地場産物の安定供給体制の構築など地域の農林水産物の生産、販売、消費をつなぐ中心的な役割を果たし、今後、各地の地産地消のさらなる発展のために活躍が期待される方々を「地産地消の仕事人」として選定している。2010年9月までに全国で131人が選定されている。

地場農産物を3品以上活用した献立

地産地消献立の学校給食を食育に役立てるために、
どのような取り組みをしてこられましたか?

中田 まず毎月19日を「食育の日献立」とし、地場農産物を3品以上使った給食の献立を作って提供したほか、生産者の栽培圃場を毎月取材し、栽培にかける思いと顔写真を載せた「給食だより」などを作って広報活動に努めてきました。

  小学6年生の家庭科の授業では、リクエスト献立作りも実施しました。児童たちがそれぞれの班ごとに教材として作成した献立を、実際に給食として提供するという取り組みです。参加した児童からは「栄養のバランスを考えると、好きなものばかり食べていてはいけないことがわかった」といった感想が多く寄せられました。

  一方、児童・生徒の保護者に対しても学校給食試食会や講習会、食育の授業参観などを行ってきました。その際の献立もできるだけ地場農産物を活用し、講習会では生産者の顔写真やコメントなども紹介しています。

  こうした取り組みの結果、現在ではほぼ毎日、地場農産物を3品以上活用した給食を提供できる体制が整っていますが、それも生産者の方々の協力があってこそです。

  実は、2003年に地産地消献立の実現に向けて検討会を始めた当初は、供給できるのはにらといちごとトマトの3品目だけという状況でした。そこで私から「それだけでは毎日の給食の献立を考えるのは難しい」と相談したところ、生産者の方から「使いたいものをいってもらえば作りますよ」と快く応じていただきました。いまでは、ねぎ、ジャガイモ、大根、白菜、キャベツ、小松菜、ほうれん草、ニンジンなど多様な品目の調達が実現しています。

食育推進の一環として農業体験をはじめ、生産者と児童・生徒の交流などにも力を入れてこられたとうかがっています。

中田 学校給食と授業を軸に、体験活動を取り入れた食育を実践してきました。たとえば中学2年生の選択技術家庭科の授業では、カボチャとブロッコリーの生産から調理、食べるまでの一連の流れを体験したほか、教育委員会事業と連携して田植え、草取り、収穫、餅つき、わらを使ったしめ縄作りなどの農業体験を親子で実施。日本文化の基本である稲作・米食への理解を深めました。

  生産者との交流に関しては、児童・生徒との交流給食を定期的に行っているほか、中学校の家庭科の授業では生産者の方から野菜選びの方法を教わり、生徒が自分で選んだ野菜を使った調理実習などを行いました。また、郷土食である「しもつかれ」の調理、行事食である餅つきの体験活動も実施。しもつかれは学校給食にも取り入れ、保護者からは「子どもが地域の伝統的な食文化を知る良い機会になった」という感想をいただきました。

  このほか、地域団体である農村生活研究グループと協力し、学校や幼稚園、保育園での活用を目的とした「食育カルタ」の作成なども行ってきました。

地場農産物の増産にも貢献

これまでの取り組みは、食育と地産地消にどんな成果をもたらしましたか?

中田 過去に実施したアンケートにもとづく主な成果としては、以下の項目が挙げられます。

・食育に関心のある保護者の増加

・給食の食材に地場農産物が使われていることを知っている児童・生徒の増加

・朝食を食べている児童・生徒の増加

・朝・昼・夕の3食を必ず食べることに気をつけている児童の増加

・夕食を1人で食べている(孤食)児童・生徒の減少

・学校給食に地場農産物を使用する割合の増加

・この地域が好きと答える児童・生徒・保護者が多い

  まず食育に関心を持っている保護者の割合は、90%近くに増えました。また、90%以上の保護者が学校給食センターの発信資料を見ていて、地場農産物が給食の食材に使われていることを知っていると回答しています。

  朝食欠食の減少に関しては、小学校の低学年ではほとんど食べないと答えた児童が2.3%から0.9%に減少し、逆に毎日食べるという児童は88.8%から94.6%に増加しています。また、中学校においてもほとんど食べないと答えた生徒が5.2%から1.4%に減り、食べると答えた生徒は74.7%から90.1%に増えています。

  孤食に関しては、朝食を1人で食べている生徒が37.5%から23.2%に減り、夕食についても7.3%から3.3%に減っています。

  このほか、学校給食に地場農産物を使用する割合は、2011年8月現在で49.4%と、国の目標である30%以上を大幅に上回っています。ちなみに栃木県全体では、2005年度は23.5%だったのが、2010年度は31.6%に増えています。また、地場農産物の年間供給量は、都賀産の野菜の場合、2003年度はわずか49㎏だったのが、2007年度は8.5tと飛躍的に増加しています。

  こうした成果を見ると、地産地消献立は食育推進だけでなく、地場農産物の増産、ひいては地域の活性化にも貢献しているといえます。

食育推進者・地産地消の仕事人としてのやりがいと、今後の目標をお聞かせください。

中田 何より励みになるのは、子どもたちの笑顔と健やかな成長です。私自身、小学生と中学生の子どもを持つ親でもありますので、すべての子どもたちが健康な心と体を育みながら夢をかなえ、笑顔が輝く人生を送れるようにがんばっていきたいと思っています。また、地域の方々と子どもたちとのつながりも、とても大事です。学校給食を生きた教材に、子どもたちが学校・家庭・地域とのつながりを深め、地域を愛する子どもに育ってくれることで、より明るく元気な地域になっていくと思います。

  今後の目標としては、長期安定供給体制の確立、協力生産者の育成・確保、食に関する総合的な指導などがありますが、食物アレルギーへの対応に関しては、すでに2008年4月から代替食を提供しており、食物エネルギーを持つ児童・生徒も安心して学校給食を食べられる体制を整えました。保護者からも「給食が食べたい、という子どもの願いを叶えることができて本当にうれしいです。給食の時間は、学校生活での大きな楽しみです。他の子どもたちと気がねなく給食の時間を過ごせていることに、大変感謝しています」といった声が寄せられています。

  これからもそうした声を励みにして、地域の力を活かした地産地消献立で食育推進に取り組み、さらに活動の輪を広げていきます。

【協力生産者の声】

伊東 正雄さん

交流給食や体験農業などを通して子どもたちと触れあう機会が増え、畑仕事をしていると子どもたちが元気に挨拶してくれるようになりました。学校給食に出荷するためには品質を上げながら、同時に量も確保する必要がありますが、子どもたちにおいしいものを食べさせてあげたいという思いで日々の手入れに励んでいます。

写真:地産地消の学校給食に協力している生産農家の方々とそれをサポートするJAのスタッフ。右から3人目が伊東正雄さん。

中田 智子(なかた・ともこ)


 

栄養教諭・管理栄養士。

現在、栃木市立都賀中学校(栄養教諭)栃木市都賀学校給食センターに勤務。2004年に学校給食優良学校等文部科学大臣表彰(文部科学省)。2007年にとちぎ地産地消夢大賞を受賞(とちぎ地産地消県民運動実行委員会/会長栃木県知事)2008年に全国地産地消推進協議会会長賞を受賞(全国地産地消推進協議会)、農林水産省「地産地消の仕事人」に選定。2009年にとちぎ教育賞を受賞(栃木県教育委員会)。2011年に優秀教員表彰(文部科学省)。2010年から栃木県学校健康教育協議会の副会長、2011年から栃木県学校栄養士会の副会長も務めている。


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