今月の「生きるヒント」

シリーズ 人生のチャレンジ 移住を選んだ人たち 第23回《前編》川村圭子さん

ユルくない田舎暮らし。そこにあるリアルと、そこで感じるリアルを大切に、やさしい波を送り続けたい

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プロフィール
かわむら・けいこ/大阪府出身。おとなしく空想好きな「自分の世界」の子どもだった。同級生とつかず離れずの少女時代を経て、芸術系の大学に進む。大学在学中に出会った夫と共に、京都の田舎で自給的な暮らしに挑戦。23歳で結婚。出産を機に、夫の出身地である高知県土佐町に移住して、手づくり焼菓子などの通販を始める。通販に続き自宅はなれの古民家で始めたカフェは、遠方からもお客さんの絶えない人気店に。同じ頃イラストの執筆も始めて大忙しの日々を送る。2014年に評判のカフェを閉め、作家ヒビノケイコとして次のステージに。初の著書「山カフェ日記」(Live design研究所)を出版。現在はブロガーとしても人気を博している。ヒビノケイコ公式ブログ
川村圭子さんのじぶん年表

常にちょっとマイノリティ

― 物静かな雰囲気の川村さんですが、どんなお子さんだったのでしょう。

川村さん:おとなしかったですね。小さい頃から絵が好きで、ひとりでぼーっとあれこれ空想しては、お絵描きしてました。友だちがいないことはありませんでしたけど、周囲とはどこか通じ合えなくて、淋しいところもある子どもだったと思います。感受性が強すぎるからと、親を心配させたようです。

― 周囲と通じ合えないような感覚というのは、長く続きましたか?

川村さん:高校まではそうでした。大学は美術系だったこともあり、変わった人が多くて面白かったです。交友関係が広がって、いろんな大人に出会って刺激的でした。ただ、アートを志す人、嗜好する人たちの中でも、いわゆるメインストリームにいたことはなかったですね。常にちょっとマイノリティという自覚がありました。

― 川村さん自身は、アートの中でもなにを大学で学ばれたのでしょう。

川村さん:陶芸学科でした。やってみて結局、合わなかったんですけどね。私は思ったものを瞬間的に表現したいタイプだったようです。

― 瞬間的に表現。なるほど。現在ヒビノケイコとして発信されているものでは、ご夫婦のお話もよく登場しますが、夫である幸司さんとは、陶芸をなさっている学生時代に出会って、京都の田舎でずいぶんストイックな暮らしをされていたと…。

ストイックな自給的暮らしが、出産を機に頓挫?

川村さん:そうなんです。土に根づいた暮らしをしながら、そこで養われる感性から出てくる作品をつくりたい思いで。そうそう、あの頃はかなりストイックでした。家賃3,000円で借りた廃寺には水道もなくて、タンクを設置するまでは水汲み生活を送りました。ほぼ菜食で、自給自足に近かったです。そうゆうものを、理想として描いてもいました。

― 水道なしで!自然派としても、かなり上級編ですね…。

川村さん:はい(笑)。

― 現在もナチュラルな印象ではありますが、そうストイックではないような。

川村さん:やってみて、その路線からは少し方向転換したんです。

― どうしてでしょう。

川村さん:数年やってみて、単純に、しんどくなったんです。25歳のとき子どもが生まれて、そこからですね。まず、おむつが大量に出ますよね。当時の私たちとしては、当然のごとく布おむつを使っていたわけですが、これがすごく大変で。もう、寝る間も惜しんで次から次へと洗わないと間に合わないんです。質素な食生活のためか、体力も足りない(笑)。

― あはは!シンプルですが、大発見!

川村さん:そうなんですよ。それで、理想を追求するより、現実と折り合うよう、無理のない中での最善の選択をしようという結論になったんです。ときどき紙おむつでもいいじゃないかって。

― そんな気づきの中で、幸司さんの故郷、高知県土佐町に移住された。

川村さん:もうちょっと、家族で地域とかかわりながら生きてみたいと思って、ふたりでいろんな候補地を見て回ったんです。夫もUターンありきではありませんでした。でも結局、今住んでいるこの家が一番気に入ったんです。ここの周辺環境が好きでした。小さな川が流れていて、それから、光の感じが良かった。

京都では、野原の中にある廃寺の庫裏(くり)が住まいだった。

― 田舎暮らし、しかもかなりストイックな生活を経験されていたので、ほかに移るにあたっても、特に不安はありませんでしたか。

川村さん:あれを思えばね(笑)、生活面ではほとんど不安はありませんでした。わたし自身は都会で生まれ育っていますけど、不便な田舎暮らしはお試し済み。それより、地域に入ってゆくことに伴う人間関係のほうが不安でした。事前に読んだ本の中には、恐ろしいことが書いてあるものもあって。

人知れず存在する、効率とは別のモノサシ

― 実際に暮らし始めてみて、どうでしたか。

川村さん:そんなに恐ろしくはなかったです(笑)。こちらもだんだん要領を得てきて、つき合い方が身についてきました。確かに、よく言われているように、一瞬にしてウワサが駆け巡るとか、それも、ときに事実ではないことが一人歩きするとか、本当にあるんですよね。でもまぁ、最後は気にしなければいいんです。悪いことばかりではなく、良い面もたくさんありますしね。悪い面と思っていたことに、実はとても良い面が隠れていることもあります。

― 例えばどんなことでしょう。

川村さん:一番は、効率でははかれない価値についてですね。都会は合理的にできていますが、田舎は違います。例えば、集落の会合。私からすると、5分もあれば用が足りるようなことに、みんな1時間かける。無駄なやり取りが多い気がして、「忙しいのに早く終わってくれないかな」と思うわけです。でも、そうしたコミュニケーションの中で、地域のおじいちゃん、おばあちゃんの体調がどうなのか、困りごとはないか、いつの間にか把握するんですね。

― あー、なるほど。

川村さん:それから、食べ物への手間のかけ方がすごいんです。こんにゃくひとつに栽培から始めちゃうほどで、気が遠くなる手のかけ方をします。「どうしてそこまで」と聞くと「そりゃあ、おいしいからよ」と。やっぱり、時間的効率は勘定されていないんですね。いかにおいしくするかしか見ていない。だからこそ、なんでも自分の手でできるようになるんです。

― 逆に言うと、都会の感覚が、いかに効率を中心に置いたものなのかがわかりますね。

2012年頃の家族写真。みんないい笑顔。

川村さん:本当に。私もすぐ、「なんのために?」って思っちゃうんですよね。田舎の人が、自分の庭でもないところをきれいに草刈りするのもそう。都会の脈絡では絶対にやらないことですよね。なにも得にならないというか、本人たちにも理由づけができないようなことを、疑いなくやるんですよ。そんな姿に触れることができて、とても良かったと思うんです。多くの人がこうした感覚を知ることで、私たちはもっと広い世界観で生きられるようになる気がします。よく、田舎だと子どもの教育環境が心配だという声が聞かれますが、私は息子にも、ここで体験させたい。洗練された知性も、ITの知識もつけてもらいたいけれど、根っこは田舎がいいと思っています。


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